和裁士からの伝言板

和裁士の「はたる」です。一級和裁技能士が着物や和裁のあれこれを綴ります。

刺し子に挑戦 その1

ネットを見ていて、なんとなく目に入った刺し子。

知ってはいた。

それまではそれ程の興味を抱かなかったけれど、今回は何故かやってみたくなった。

 

縫うだけでしょ?

あんまり単純だとつまらないだろうから、ちょっと複雑な柄が良いな。

そう思って購入したのがこちら。

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おぉ✨

良き良き✨

出来上がったらまるで絵画の様ではないか。

 

僕らは縫う技術が高いですから、一般人とは違いサラサラ縫えるわけですよ。

縫う事に関して言えば一般人ではないわけですよ。

ほっほっほっ。

これ位なら4時間もあれば出来るんじゃね?

プロですから。

付属の針は刺繍用で長い。

我々はその様な長い針では縫わんのですよ。

短い針でサラサラ縫うのですよ。

 

 

 

針に糸が入らねぇ・:*+.\( ;∀;)/.:+

 

 

糸が太い…

付属の木綿の刺繍糸が太い…

ふっ。

そんな事は想定内。

色々な針を持っています。

木綿を縫う時の針があるのです。

これなら糸を通す穴も大きめ。

よしよし、なんとか糸が通る。

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さぁ、本領発揮です。

サラサラ縫います。

サラサラ縫って、

針をグッと引き抜きます。

針をグッと、

針をグッと…

針を…針が…

 

 

針が抜けねぇ☆*:.。. ヽ(;▽;)ノ.。.:*☆

 

 

糸と布の摩擦がパネェ。

これは想定外…(お前はプロか?

サラサラと縫い進んだ針がザザザッと戻る時の哀しさよ(๑´• ₃ •̀๑)

結局5〜6㎝ずつしか縫えない。

まぁ、とりあえず外枠を縫う。

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さて、この後はどこから縫うか。

出来るだけ一筆書きの様にして糸を無駄に使わないようにしたい。

分かりやすそうな下の方から。

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よしよし、順調。

 

 

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あぁ、糸が…

長距離を縫うと糸のヨリが無くなって脆くなってしまう。

そしてこの辺りで気付く。

刺し子は「縫う」ではなく「刺す」と表現する理由に。

カーブのきつい曲線部分は連続で縫えない_:(´ཀ`」 ∠):

そーゆー事か…(お前はプロか?

 

 

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正確な時間は忘れたけれど、ここまでで3時間はかかった気がする。

おいおい、まだ1/3位じゃね?

甘く考えていたかもしれない。

 

ひたすら刺していく。

それしかない。

でも、没頭できるんですよ、コレ。

無になれる。

その感じがジグソーパズルに似ている気がした。

 

ジグソーパズルはとても好きなんです。

やるとしたら大きいやつがいいんですよね。

達成感があるから。

最低2000ピース。

でも、途中のジグソーパズルは邪魔で仕方ない。

出来上がっても飾る場所が無い。

フレーム高い(T ^ T)

なかなか手が出せないのです。

でも、刺し子なら安いし、場所は取らないし、出来上がったら布巾やハンカチとして使える!

大きさ変えればコースター!

刺し子とってもイイネ‼️

 

 

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刺し子キットを買ったというだけのツイートでこれだけの反応。

もしかして刺し子プレーヤーは多いのか?

多くても不思議じゃない。

分かるよ、分かる。

没頭出来る感じが堪らん。

 

 

 ちくちくと刺していく。

 

 

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出来た‼

ふおぉ~。

9時間はかかった。

おそるべし、刺し子。

最初からプリントされていた点々は洗うと落ちるのです。

しばらく水に浸してもみ洗い。

干して半乾きにしてからアイロンをかけます。

完全に乾いちゃうとしわが取れにくいので、やや湿った位でアイロンをかけます。

 

 

 

さて、一家に一台はあるナオモトアイロンを用意します。

ふっ。プロなので。

 

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アイロンをかけてキレイになりました‼

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裏はこんな感じ。

糸を継ぐ時は数針重ねれば良いらしのだけれど、糸が太いから重ねたらその部分だけモリモリになりそうで、結局玉留めを作りました。

う~ん、綺麗では無い…

やはり重ねるべきだったか…

まぁ、初めてだし、良しとしましょう。

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ツイッターのフォロワーさんが教えてくれたのが「一目刺し」という刺し子。

調べてみると、なるほどなるほど。

柄がタテ・ヨコ・ナナメの直線で構成される刺し子のようだ。

曲線が無い。

これならサラサラ縫えるだろうと即注文!(何かを忘れている…

刺し子、とっても楽しいよ٩( ᐛ )و

 

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仕立て代が安過ぎて…

お金の話を積極的にする人はあまりいない気がします。

タブーなんですかね?

いやらしいんですかね?

お金よりも気持ちでしょ?って事ですかね?

でも、きちんとした仕事への対価はお金です。

そのお金がきちんとしてなかったらダメです。

しっかりと考えないといけません。

お金の問題はお金だけの問題では無いと思っています。

着物の仕立て代について、僕なりの考えを書いていきます。

 

仕立て屋の立場として偏った考えの部分もあるかと思います。

ユーザーさん、呉服屋さん、他業種の方々からの意見があれば是非聞かせていただきたく思います。

 

普段は、ユーザーさん・呉服屋さんと書くのですが、頻出するので「さん」は省略します。

 

 

 

 

着物の仕立て代の相場は?

分かりやすく、女物袷長着の小紋の仕立て代で考えていきます。

HPを持っている仕立て屋は沢山います。

HPを見てみると、値段は個々で違うし地域の物価も影響するのですが、だいたい2〜3万円です。

但し、これは個人客から頂く金額です。

呉服屋から頂く金額はもう少し低いと考えられます。

仕立て屋は個人客よりも呉服屋から仕事を多くもらっている事がほとんどだと思います。

なので、2万円も貰えないという人も多いでしょう。

 

2万円は安いの?高いの?

安いです。

1枚を仕上げるために1日8時間労働で3日は欲しいです。

ほとんどが個人で仕事をしています。

我々の仕事は縫うだけと思われがちかもしれませんが、そんな事はありません。

寸法算出、反物検査、アイロン当て、裁断、縫製、仕上げ、納品、伝票管理、経理、糸や付属品の管理や発注、その他雑務…

これらの作業を含めたら、1枚当たり3日は必要です。

24時間で2万円…

違います。

糸や針や事務用品などの消耗品費、光熱費、通信費、税金などが引かれます。

呉服屋によっては、こちらが納品に行かなければいけません。その場合はさらに時間がかかる上にガソリン代がかかります。

いったい24時間でどの位手元に残るのでしょう?

1万5〜6千円位?

時給700円に届きません。

 

適切な価格は?

サラリーマンの年収で考えてみます。

平成30年でのサラリーマン平均年収は440万円です。(男女全体、賞与込)

沢山貰っている人は、より多く貰っているので、中央値はやや下がるでしょう。

キリ良く400万円とします。

年間300日働いたとして、100枚仕立てられる事になります。

という事は、1枚の仕立て代は4万円が…

違います。

有給も無いし、退職金もありません。

その辺りも考えると1枚当たり4万5千円でサラリーマンに追いつくと考えます。

 

何故こんなに安いのか?

そんなのは僕が聞きたいです。

なので、恐らくこうではないか?という話をします。

昔は和服が普段着で(そもそも洋服が入ってきたから和服という言葉が生まれた)、その裁縫は家事のひとつだったはずです。

仕事としての和裁も主婦による内職がほとんどだったのではないでしょうか?

僕の祖母も内職で和裁をしていました。

内職だから安い。

和裁の組合が作られ、その頃から仕立て代の値上げは仕立て屋全体の課題だったようです。

少しずつですが値上がりしていったのが古い資料から分かります。

それでもやっぱりまだ安い。

で、現在の仕立て代は平成の初めからほとんど変わっていないと思います。

色々事情があるのでしょうが、これが非常に不可解。

消費税は10%になり、物価も2割は上がっているのではないでしょうか。

糸や針や付属品はどんどん値上げされます。

光熱費もどんどん上がる。

年金の支払いもどんどん上がる。

それなのに仕立て代は変わらない。

相対的に収入はメチャクチャ落ち込んでいるはずです。

それなのに仕立て代は変わらない。

何故なのか?

 

昭和後期に活躍していた人がバブルという成功体験をしたと思います。

この人達の頑張りで日本はとても成長したはずなので尊敬している事は間違いありません。

ただ、バブル崩壊後、大きな時代の変化に対応しきれなかったのではないでしょうか?

業界内での地位を確立して、ある程度の資産も築き、成功体験も頭の中に残り、様々な意味での余裕の様な物を手に入れたのではないでしょうか?

右肩下がりになっても、それまでの右肩上がりの余韻が危機感を薄れさせたのでは…

表面上は次の世代にポジションを受け渡しても「自分達はこうやってきた」と言い、その自負からかリーダーシップを遺憾無く発揮し続け、次の世代を押さえ込んでいる様に僕の目には映ります。

自分の残りの未来を切り抜ければ充分という考えが根本にあったのではないですか?

業界全体を考えたらゴールなんて無いのに、自分達のゴールを見据えていたのではないですか?

現状把握と未来設計が重要なのに、どちらの認識もおかしかったのではないですか?

世代交代失敗してませんか?

仕立て代だけでは無く、この業界自体が変わらないままなのかも…

 

これ、

大した経験もしていないくせに、何も知らないくせに、何を言っているんだ!

と怒られそうだな…

でも、そう感じるんだよなぁ…

 

 

仕立て代が安過ぎて…

仕立て代は安いまま、相対的には下がってきて、どうなったか。

技術者の激減です。

 

年齢によるリタイア。

これは仕方ありません。

現在60代後半以上の方々は、この業界がグングン成長している時に修行をし、活躍された方々です。

物凄く沢山の方々が和裁をされていました。

今、その方々が辞めていくのは必然です。

 

本当の問題は「減っている」事では無く「増えていない」事です。

技術者を育てようとする所も減っていて、技術者になろうとする人も減っています。

 

技術者を育てる所、つまり和裁所ですが、複数の生徒を抱えていて、生徒は指導を受けながら商品を縫うという仕組みです。

何故減っているのか。

和裁所は生徒が縫った商品の収入で経営し、収入の一部は生徒に還元。

生徒は指導料を払わずに済み、僅かではあるが収入を得る。

昔は仕事も多く生徒も多かったため、1枚当たりの収入が少なくても薄利多売の様な事で和裁所は維持できていたのでしょう。

それができなくなって和裁所の経営が厳しくなっています。

 

技術者になろうとする人の減少は少子化ですから当然ではありますが、それでも選ばれる職種はきちんと選ばれているわけです。

何故和裁は選ばれないのか。

稼げないから。

稼げなければ選ばれないのは当然です。

就職するに当たり給与は最重要項目です。

どの程度稼げるか分からないまま修行を始める人も多いですが、才能があり技術を身に付けても生活ができずに辞めていく人が多くいます。

もちろん続けている人もいますが、その多くは主婦で家事や育児の合間に仕事をしています。

和裁ひとつで生計を立てるのが厳し過ぎるのです。

それでは技術者が増えるわけもありません。

 

 

このまま行くとどうなるのか?

それでも技術者になろうとする人がゼロになる事はないでしょう。

それよりもまず指導者がいなくなるのではないかと思います。

 

当然、指導者を育てる事をしなければ指導者は生まれません。

指導者になるには沢山の生徒を指導しなければいけません。

生徒が少なければ指導をする機会が減り、なかなか良い指導者は育ちません。

 

指導をしている間は自分では仕事ができません。

生徒が縫った商品の収入が指導者の収入に繋がるわけですが、生徒が縫うスピードは遅いので、沢山の生徒がいないと成り立ちません。

薄利多売を前提とするやり方では生徒が少な過ぎるのです。

 

指導者を育てる環境も、指導者として仕事をする環境も無くなりつつあります。

 

現在、指導者として活躍されている人の年齢は40代以上ではないかと思います。

この中で、技術者だけでなく指導者を育てている人はどの位いるのでしょう?

 

指導者がいなくなれば消滅確定です。

和裁をゼロから始めて、しっかりした指導者になるには15年はかかる気がします。

現在、指導者の最低年齢が40歳として、75歳で引退すると考えます。

そうすると、60歳までには育て始めないといけませんが、100%の確率で育つわけではないので55歳までには育て始めたい。

あと15年。

自分の子供に跡を継がせたいという声は今のところ僕は聞いた事が無いので、身内以外から入ってきてもらう事になります。

和裁とは縁の無い人に、和裁の事、和裁の魅力、和裁で充分な生活ができるという事をアピールしなければいけません。

アピールし始めてから浸透するまでに5年。

そうすると、あと10年で和裁の労働環境を改善させないと消滅がはっきりと見えてきます。

 

30年変えられなかったものを、あと10年で変えないといけない。

僕の勝手な計算ですが、どう思いますか?

 

 

誰が悪いのか?

・呉服屋が悪い

仕立ての技術を、仕立て屋の価値を軽視していないだろうか?と感じます。

軽視していなくても、技術そのものを知らないのかなとも思います。

どの位の手間がかかっているのか、どれほど難しい事をしているのか、それに見合った賃金なのかをしっかり考えていただきたい。

コートは衿の形に関わらず一律の値段を要求される事があります。

道行衿と都衿では難易度が全く違います。

化繊の着物だから安くしてくれと言われる事があります。

化繊は熱に弱いためコテやアイロンを高温にできません。

そのため、折りが付きにくく時間がかかります。

正絹よりも高くしてほしいくらいです。

 

さて、呉服屋は何を売っているのでしょうか?

単に布を売っているわけではありません。

衣服を売っているのですよね?

仕立ての良し悪しは着心地に直結します。

着心地によって顧客満足度が大きく変わります。

仕立て代は安ければ安いほど良い、それでは仕立て屋は100%のパフォーマンスができません。

安かったとしても手は抜きたくない。

しかし生活をしていかなければならない。

優良から良へ、良から可へと落とさなければいけない状況にもなります。

不可の仕立ても出回っています。

安かろう悪かろうになり得るのです。

良い仕立てを選び、品質に見合った仕立て代を支払っていただきたいと思います。

 

・ユーザーが悪い

安ければ良いと思っていませんか?

どんな製品も人が関わっています。

人が手間をかけています。

仕立て代を聞かれて、答えた瞬間に「高い!」と言われる事もあります。

何を基準にして、どの様に考えて高いと言うのか…

洋服の業界でのファストファッションの問題は知っていますか?

バングラデシュの縫製工場での事故を知っていますか?

ハイブランドでも労働環境問題がある事を知っていますか?

着物の業界でも似たような問題が起きています。

どの様な生産・販売が正しいと言えるのか、今の生産・販売は正しいのか。

消費者の8つの権利と5つの責任

もっと考えるべきなのではないでしょうか。

 

www.fashionsnap.com

 

news.yahoo.co.jp

 

・仕立て屋が悪い

自分の技術を過小評価し過ぎています。

できるだけ安く提供したい。

確かにそうなのですが、安ければ安い程良いと一番思っているのが仕立て屋かもしれません。

我々はモノではなく技術を売っています。

仕立て代を安くするという事は、技術の価値を下げるという事と同義になってしまいます。

必要以上に取ってはいけませんが、必要な分は取らないといけません。

 

何故取らないのか?いや、取れないのか?

 

何かしらの取り引きをする場合、対等な立場での取り引きが健全です。

立場が対等で無いと不公平な取り引きになり、下の立場の者は従わざるを得ない。

仕立て屋の仕事のほとんどは呉服屋から来ていて、呉服屋に依存している状態に近い気がします。

「この金額でできないなら他へ回す」と言われてしまうと断り難い。

技術の過小評価・呉服屋への依存によって「自分の価値はもっと高い!」と言えないのではないでしょうか。

 

 

同業の女性に、

男の人が和裁で…大変よね…

と言われることがあります。

これはどういう意味でしょうか?

「大変」というのはもちろん金銭的にです。それはわかります。

女性なら大変ではないのでしょうか?

そんなことありません。女性も大変です。

では、女性なら大変でも良いのでしょうか?

女性なら低賃金でも仕方ないと思っているのでしょうか?

こんな考え方が自分たちの中に染み込んでしまっていませんか?

 

 

人に「和裁をやっています」と言っても「ワサイって何ですか?」と言われてしまうのが現状。

存在すら知られていない。

これでは我々の価値なんて分かるわけもない。

誠実な仕事をしていればそれで良い。

本当にそうでしょうか?

技術の価値の再確認・呉服屋やユーザーへの自己アピールをして、自分の価値を高める努力をしなければいけないでしょう。

 

 

持続可能な業界へ

4万5千円という具体的な金額を算出しましたが、現実的では無いと思っています。

現状とかけ離れ過ぎていますので。

僕は現状が異常だと感じます。

布を着物に変化させているのは仕立て屋です。

仕立て屋がいなくなったら着物業界は回らなくなります。

もちろん仕立て代が高過ぎて売れなくなってはいけませんが、今のままでは危険です。

どの様にすれば持続可能となるのか、みんなが考えていかないと。

伝統だからと言って無理矢理残すのは違うと思うけれど、何も考えずに消えてしまったら残念ですよね。

 

マイナスイメージになってしまう事を沢山書きました。

でも、とうとうダメになってから「前から危険な状態でした」と言っても遅いから。

 それと、今回の内容は現状認識と目標設定でもあります。

このふたつをはっきりさせないと、どの様に行動すべきかが決まりません。

自分に何ができるのか。

それについてはまた今度書いてみようと思います。

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緊急事態宣言 和裁士の仕事は…

緊急事態宣言が出され、さらに今日は延長が決まりました。

現在の仕事状況について書いてみようと思います。

 

 

取り引きをしている呉服屋さんは?

個人で営業されている呉服屋さんは、とりあえずは開店しているようです。

休日を増やすという対応をされている所もあります。

来客は減っているとのこと。

デパートに入っている呉服屋さんは、デパート自体が休業になってしまったため営業していません。

 

 

和裁士は仕事をしているの?

僕の会社はほとんど通常通りに仕事をしています。

他の方々も仕事をしているようです。

 

 

呉服屋さんが休業状態なのになぜ?

理由のひとつは、手元に残っている仕事があるという事です。

納期は基本的にひと月以上は時間を取ってもらっています。

それより先の納期の仕事もあります。

納期が近いものから手を付けますので、先のものはストックされます。

 

もうひとつの理由は、お客様が購入されてから仕立てに回ってくるまでに時間がかかるという事です。

湯のしやスジ消し・紋入れ・撥水加工などの後に仕立てをしますので、しばらくの間は緊急事態宣言前に購入された反物が仕立て屋に回ってきます。

 

今はまだ少しは仕事があります。

 

 

今後はどうなるのか?

どうなるんでしょうか?

誰か教えて(´;ω;`)

 

ストックが尽きれば、しばらくは仕事が無いかもしれません。

 

とりあえず、浴衣・夏物は壊滅的でしょう。

多くのお祭りや花火大会などのイベントの中止が決定しています。

この時代、着物はやはり「特別な時」に着るもの。

「特別な時」が無ければなかなか売れません。

あ、もちろん買っても良いんですよ?

いやぁ、でもねぇ、具体的に着る時の事を考えられないと購入意欲も湧きませんよね。

この自粛がいつまで続くのか、秋になればイベントがあるのか、それがはっきりしないとなかなか…

でもでも、すごく気に入った着物を見つけたら、買っちゃっても良いんですよ?

 

 

メンテナンスを考えてみませんか?

空白の期間。

今だからこそできる事。

メンテナンス‼️

汗染みや汚れはありませんか?

寸法を直せば楽に着られるのになぁと感じる着物はありませんか?

洗い張りしようと思っていた着物はありませんか?

なにかあれば呉服屋さんや職人さんに問い合わせてください。

少しでも仕事を回していただけるとありがたいです。

 

 

仕事が無い期間をどう過ごすか?

ボケーーーーー(°▽°)ーーーーーっとしているわけにもいきません。

普段はできない事をやるチャンスです!

未来への投資をするのです!

実利が取れないなら厚みを作れ!(囲碁用語)

変化を起こすなら今しかない!

うおーーーーーー‼️

 

 

 

どうか廃業しませんように…。

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誕生日を迎えました

今回は和裁関係無しです( ˘ω˘ )

 

今日は誕生日でした。

38歳になりました。

 

今朝、訃報を受けました。

知り合いの和裁士さんが亡くなったとの事。

はっきりした年齢は存じ上げておりませんが、40代だったと思います。

同じ呉服店の仕事をしていたので、たまに納品時にお会いしていました。

先週の金曜日にも顔を合わせていました。

 

4年前の今日は祖父のお通夜で、その日に友人から出産の報告を受けました。

 

 

 

生と死が交錯すると感じるこの日。

思い出すのは藤田和日郎さんの漫画「うしおととら」に出てくる妖怪が人間達に投げかける台詞。

 

『満足する死とは何だ?』

 

作品の中ではひとつの答えを出しているが、それは、潮や真由子や麻子の答えであって、万人の答えでは無いと感じる。

 

満足する死とは、つまり、満足する生だろう。

満足できたかどうかはどの様に生きたかを総括しなければ分からない。

それは、やはり死の直前ではないと分からない気がする。

 

分からないなら、少し視点を変えて考えよう。

 

満足する死を迎えた自分はどの様な状態だろうか。

おそらく、笑っているだろう。

笑っていたら、なんだかバカみたいだ。

微笑み位が丁度良いのだろうが、自分はおそらく、笑っているだろう。

 

という事は、死の瞬間に笑えれば、自分の生は満足できるものになる。

 

滅茶苦茶な理論だと思う。

でも、笑っていたい。

 

それなりの後悔、どうしても納得出来ない理不尽な事、すでに抱えて生きている。

それはもう仕方ない。

これからも起こる。

それも仕方ない。

それでも、満足できたと思いたい。

全部ひっくるめて笑ってしまいたい。

その時に、それが出来る様に、出来るだけ沢山笑って生きて行こうと思う。

 

 

尊敬する後輩の言葉がある。

『誕生日とは、祝ってもらう日では無い。一年無事に生きられた事を親・家族・友人・知人に感謝する日である』

 

感謝しても、感謝しても、感謝しきれない人が沢山いる。

恩返しなど到底できないだろう。

あいつは良く生きた、そう思ってもらう事が恩返しのひとつになり得るのではないだろうか。

 

出来るだけ沢山笑って生きて行こう。

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女袷長着を男袷長着へ仕立て替え

 

ご存知の通り、着物は仕立て替えができます。

寸法を変えたり、形を変えたり。

でも、女⇆男の依頼は少ないですね。

長着の場合、男→女はキビシイのです。

女性はおはしょりをしてきるので身丈が長く必要ですからね。

女→男も少ないのは何故か?

・男性着物ユーザーが少ない

・仕立て替えられる事が知られていない

こんな感じでしょうか。

 

そんな状況の中、女物長着から男物長着への仕立て替えの依頼が来ました‼️

 

先に結果を見せましょう。

 

これが

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こうなった‼️

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違いが分かりますか?

洗い張りをして仕立て替えたので形状だけでは無く、もちろん寸法もご本人に合う様にしました。

 

反物からでは無く仕立て替え、しかも形状を変えての仕立て。

様々な制約がある中での仕立てです。

どの部分がどの様に変化するのか。

どの様な問題が起きるのか。

その解決策は何か。

その辺りを説明していきたいと思います。

 

1.女物と男物の違い

2.仕立て替えで起こり得る問題

3.解決策を実例と共に

こんな感じで書いていきます。

レッツゴー٩( ᐛ )و

 

 

1.女物と男物の違い

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左が女物、右が男物です。

ひとつずつ説明します。

 

⚪︎袖口

女物6寸(22.7㎝)男物7寸(26.5㎝)が基本。

 

⚪︎袖付

女物5寸5分〜6寸(20.8〜22.7㎝)が多い。

男物は袖丈から詰人形を引いた寸法。

 

⚪︎詰人形

男物のみ。2寸5分(9.5㎝)が基本。

女物の振りとは違い、前後で縫い閉じてある。

閉じてあるので袂に物を入れられる。

 

⚪︎振り

女物のみ。

袖丈から袖付を引いた寸法。

前後が開いている。

 

⚪︎身八ツ口

女物のみ。3寸5分〜4寸(13.3㎝〜15.2㎝)が基本。

着る時にここから手を入れておはしょりを整える事ができる。

 

⚪︎内揚

女物も男物も着た時に帯で隠れる。

帯を締める高さに合わせるため、肩山からの寸法が男女で違う。

 

⚪︎衿巾

女物は広衿で衿巾は11.4㎝。

折って着る。

折らずに着るバチ衿もある。

男物は棒衿で衿巾は5.7㎝が基本。

折らずに着る。

 

⚪︎褄下

男女とも身丈(背)の半分が基本。

身丈に対する割合は同じだが、長さ自体は女物の方が長い場合が多い。

 

⚪︎身丈(背)

女物は身長と同寸が基本。

男物は身長×0.83〜0.85が基本。

 

⚪︎衿肩明

女物は2寸4分が基本。

男物は2寸2分〜3分位。

男女で同じ位の体型なら女物の方が大きい。

 

⚪︎繰越

女物は5分〜1寸が多い。

男物はゼロが基本。

 

2.仕立て替えで起こり得る問題

形状の違い、寸法の違い、それに加えて内蔵されている縫代の量とその状態によって様々な問題が起こります。

各部分でどの様にな問題が起こり得るのか考えてみます。

問題が起きなかったとしても確認しておきたい部分がありますので、それも記載します。

 

⚪︎身丈

多くの場合、女物の方が長いです。

内揚げがあればその分もプラスされますね。

男物長着の背身丈は、

身長×0.83〜0.85

これが目安です。

僕は身長177㎝の細身で背身丈は150㎝。

 

⚪︎身巾

基本的に問題ありません。

 

⚪︎袖丈

現状の袖丈と袖底縫代を測り、希望の袖丈にできれば大丈夫。

希望より少し短くなっても、まぁ良いと思います。

男物って、袖丈の事はあまり気にしなくても良いんですよね。

襦袢・着物・羽織の袖丈が違っても、着てしまえば分かりません。

袖丈1尺2寸8分の襦袢に袖丈1尺2寸の着物を着てたりしますけど大丈夫です。

 

⚪︎袖口

袷の場合、ここ、意外と盲点です。

男物の方が1寸も長いので、口布が足りない‼️という事があります。

 

⚪︎裄(袖巾、肩巾、衿肩明)

布巾と体型によります。

袖付部分の縫代を確認して、袖巾・肩巾が取れるのかどうかです。

これは分かりますよね?

さらに注意しないといけないのが衿肩明です。

もちろん体型によりますが、男女で同じ体型の場合は女物の方が衿肩明が大きくなります。

女性は衣紋を抜いて着るので、衿が首から離れた位置を大きく回り込みます。

一方、男性は首に沿わせて着ます。

そのため、女物の衿肩明は男物に比べて大きくします。

それが何故、裄に関係してくるのか。

この図をご覧ください。

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衿肩明は肩山付近にある縫いからの切り込みの事です。

切ってしまっているので、当然小さくはなりません。

しかし、男物に仕立て替えるためには小さくしたい。

衿肩明の「大きさ」は背縫いとの相対関係ですので、切り込みの先端から背縫いまでとなります。

小さくするには背縫い代を増やせば良いわけです。

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しかしながら残念な事に、上の図の様に背縫い代を増やせば肩巾の限界値が小さくなってしまいます…(ノД`)

この事を考慮して裄を確認しないといけません。

 

⚪︎衿丈、掛衿丈

身丈と同様に、多くの場合は女物の方が長くなるので大丈夫です。

少し足りない位なら、その分だけ褄下を長くします。

 

⚪︎ほぼ全ての部分で起こり得る問題

女物や男物に関係無く、仕立て替えや寸法直しに共通する問題です。

長くなる・広くなるなどで、今まで縫代だった部分が見えてしまう事があります。

その場合、色焼け、布の傷みなどが問題となってきます。

どの程度なら許容できるのかという事になりますが、全て解いてみないと全体の程度を知る事は困難です。

また、予想外の切り込み、縫代の欠損などで思っていた仕立てができない事もあります。

これも解いてみないと分かりません。

この様なリスクがある事を知っておいていただきたいなと思います。

 

3.解決策を実例と共に

前途した問題にどの様に対処するかを書いていきます。

 

⚪︎袖口

その1. 袖口を小さくする

女物が6寸ですので、6寸あればちゃんと腕を出して動けます。

それに、袖口が大きいと最近のドアノブに泣かされる確率が上がります( ´△`)

但し、袂に物を出し入れする為には6寸では小さいかも。

僕は6寸5分(24.6㎝)にしています。

 

その2.  八掛の前身頃から切り出す

袖口は7寸じゃないとイヤ(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)

という場合は八掛から切り出します。

八掛の長さが十分にあればそのまま、短ければ袖山で元の袖口布と接ぎます。

これなら袖口を7寸にできます。

 

 

⚪︎裄(袖巾、肩巾、衿肩明)

1番厄介な部分ですね。

2枚の着物から仕立てたりする場合は身頃に足し布を入れたりもできますが、今回は1枚の着物だけです。

前途した通り、肩巾には限界があります。

布巾の問題だけでは無く、着る人の寸法によっても肩巾には限界があります。

足りない分は袖巾でなんとかする事になります。

袖に足し布をする事で袖巾を広くします。

「割り入れ」と表現しています。

写真の様に、表は袖付け側に、裏は袖口側に足し布を付けます。

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表は矢印の部分に縫い目があります。

今回の着物は細かい柄が散らばっていますし、色味が出来るだけ繋がる部分を選んだので目立ちにくいと思います。

着て動いていればなかなか気付かれる事は無いでしょう。

無地だと目立ちますが、割り入れが着物としておかしい訳ではありません。

 

ちなみに、僕の着物も袖に割り入れしています。

柄を合わせると目立たなくなります。

どこに縫い目があるか分かりますか?

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さて、この足し布を何処かから切り出してこないといけないわけですが、何処からどの様に切り出しましょう?

いくつか方法があります

 

・衿から その1

衿の構造はこの様になっています。

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赤いラインで裁断し、掛衿先を縫う事で外側からの見た目は元の衿と同じになります。

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今回の仕立て替えはこの方法でした。

 

・衿から その2

この様に切り出す事もできます。

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切り出して足りなくなった部分は裏衿で補います。

男物から男物への仕立て直しで、掛衿が短い時はこの方法を考えるかなぁ…

袖丈は充分にはできない可能性が大きいです。

自分の着物でこの方法を使いましたが、切り出した布をいっぱいに使っても袖丈は短くなりました。

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・右衽から

図の様に切り出し、無くなった部分は別の布を足します。

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できるだけ本体と似た布(材質・織り・色)を足したいです。

本体と似た様な布があれば、この方法が1番袖巾を出す事ができるでしょう。

 

※どの方法も、袖丈・袖巾がどの位にできるかを考えて選択する事になります。

希望の寸法はできない場合は、どの部分を妥協するかを考えて選択する事になります。

 

 

⚪︎色焼けや布の傷みなど

穴や破れなどは簡単な補強でよいなら仕立て屋でもできます。

裏に接着芯や布を当てる程度です。

しっかりしたかけつぎ、色補正は専門の職人さんに依頼する事になります。

解いてみなければ分からない、という事は解けば分かるという事です。

そのままの状態では使用する事が無く、解いてしまっても後悔しないのであれば、ご自身で解いてから我々に見せていただければどの様な問題が発生するのかが事前に分かります。

ご自身で解く場合は、解く前の写真を全体的・部分的に撮っておくと無難かと思います。

 

 

今回書いた内容は、基本的な女物長着から男物長着への仕立て替えです。

元の着物の寸法や状態、仕立てる着物の寸法などで起こる問題は様々です。

僕が経験した問題なんて、まだまだ僅かなものでしょう。

でも、和裁は基本的に直線裁断なのでパーツは全て四角。

仕立て上がりの形状が違ってもパーツは四角。

万能とまでは言えませんが(無理なものは無理)パーツの組み替え方を工夫することで仕立て替えが可能になる場合が多々あるという事を知ってもらえたら嬉しいです(๑˃̵ᴗ˂̵)

 

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着付け講師すなおさんへの敵対心

久々のブログのタイトルが不穏…

 

すなおさんの動画で僅かながらですが助言をいたしました。

そうしたら、このブログを紹介していただけるようで、ありがたやありがたや…

ですので、今回のブログはすなおさん所から来ていただいた方が多いかと思います。

 

それなのにタイトルが不穏…

 

すなおさん?誰?

という人はこちらをご覧ください。

ブログ  

https://kimonoshake.jp

YouTube  https://www.youtube.com/channel/UC9_jyB4wC3UXiZG7Zn9WKSA

Twitter

@kimonosunao

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https://instagram.com/kimonosunao?igshid=1220oy586ivoe

 

和裁士の仕事はミリ単位

僕達は指定された寸法や、お客様に合うように割り出した寸法の通りに着物を仕立てます。

既製品では無い限りちゃんとその寸法にします。

部位にもよりますが、数ミリ違えば「違う寸法」という感覚です。

数ミリがどの位かというと、身丈は長いので5ミリ以内、他は2ミリ以内の誤差で仕立てます。

細かい部分だと織糸レベルで気になります。

 

着付けも習いました

着物はもちろん着てナンボ。

当然、着る事を前提で仕立てます。

という事は、どの様に着るのかを知っていなければ良い仕立てができません。

なので着付けも習いました。

浴衣や小紋はもちろん、留袖、振袖も習いました。

さすがに「今やれ!」と言われても無理ですが、どの様に着るのか、綺麗に着るためにはどの様な仕立てをするべきなのかを学ぶ事ができました。

 

すなおさんの動画を知る

すなおさんはタンスに眠っている着物や、アンティーク着物を活用できる様にするために様々な工夫を凝らした着付けを動画で紹介しています。

着物を着る事へのハードルをできるだけ下げようとしているわけですね。

それはすなおさんからも直接聞いたので分かっています。

寸法が違っていても、補正は少なく抑えて着る。

着る。

とにかく着る。

着ちゃうんですよね、すなおさん。

着る人に寸法が合ってなくても、着物と襦袢の寸法が合ってなくても、着ちゃうんですよ。

ショックでした。

いつも頑張っているミリ単位の仕事を否定された気持ちになりました…

 

自分が習った着付けを振り返る

着る人の身体に合う着物で、着物と襦袢の寸法も合っている、そういうものでの着付けを習っていました。

そういう着物を仕立てているので当然ですよね。

身体に合う着物、それが正義であり絶対的である。

この感覚が意識する事もなく染み込んでいました。

ある種の職業病かもしれません。

 

すなおさんへの敵対心

すなおさんのTwitterのフォロワーも、you tubeの登録数もどんどん増える。

この着付けが拡まると自分達の仕事の価値はどうなってしまうのか…

敵対心、というのは大袈裟かもしれませんが、似た様な物は抱いていました。

昨年の夏にライブ配信をした時も。

もちろん分かっているんです。

自分の身体に合わせて仕立てた着物を着る事と、そうでない着物を着る事は意味合いが違うという事は。

頭では分かっているんです。

今までに自分の中にはあまり無かった価値観を見せつけられて、自分達の仕事に対する自信が揺らいだんでしょうね。

すなおさんの着付けの工夫も、もちろん人柄も素晴らしく、だから敵対心というよりは畏敬の念という表現が的確かもしれません。

 

自分達の仕事の価値を感じる出来事

個人のお客様から仕立てのご依頼がありました。

後藤和裁に来ていただき、色々お話を伺いました。

着物を持ってはいるが、身巾が広い様で少し着難い。一度自分に合う着物を仕立ててみたい。

との事でした。

お手持ちの着物を着るとどこが着難いのか、普段の着付けはどの様にしているのかなどを聞きながら採寸。

そこから寸法を割り出し、お仕立てしました。

とても着易かったと言っていただき一安心。

その後、同じ方からお手持ちの着物の身巾直しのご依頼もいただきました。

わざわざ直さなくても着る事はできますが、着易い着物に高い価値を見出したという事なのでしょう。

もちろん直すためにはお金がかかりますが、そのお金は自分達の技術に対する評価だという事です。

救われた、報われた、確信した。

そんな気持ちでした。

自分の身体に合わせて仕立てた着物を着る事と、そうでない着物を着る事は意味合いが違うという事なのです。

 

選択肢を増やす 良し悪しは委ねる

意味合いが違うと書きましたが、

 

⚪︎着付けで工夫する

・安価で済む

・工夫する事が必要

・着難い部分が生じる

 

⚪︎自分に合わせて仕立てる

・高価になる

・1番着易い

 

大雑把に言うとこの様な違いがあります。

この違いはそれぞれの特徴です。

単体で考えて「良い・悪い」があるでしょうが、総合的に考えた上でユーザーにとって「良い・悪い」が変わってくるはず。

「好き・嫌い」でもあるだろうし「合う・合わない」でもあるでしょう。

一人ひとりのユーザーにとって「良い特徴」が違うのは当然で、それは提供側が決める事では無いですよね。

多くのユーザーにより良い選択肢を選んでいただく、その為にはより多くの選択肢があった方が良いはずです。

すなおさんが提供するものと僕達が提供するものは違う選択肢なのです。

前述の通り、こんなことはすなおさんに会う前から分かってはいたんですけどねー(;´д`)

 

必要の無い敵対心は捨てましょう

すなおさんの着付けで迷走し、お客様の声で自信を取り戻し、なんともまぁ脆弱な精神だなと思ったわけですが、何はともあれ自分に出来る事を誠実にやる事で他には無い特徴を確立すれば良いという結論に至りました。

これも最初から分かっていたけれど、改めて実感したという感じです。

これは同じ業界の人や同じ様な職種の人に対して抱きやすい感情なのかもしれません。

相手が完全なる敵という場合もあるでしょうが、各々の特徴を冷静に分析してみれば敵対する事は無く、むしろ協力する事でお互いの特徴を伸ばす事が出来るかもしれません。

様々な特徴が生まれればユーザーの選択肢も拡がり、それが新規ユーザーの獲得にも繋がるでしょう。

同じ和裁でも、手縫い・ミシン併用・海外縫製など色々あって良いし、同じ着付けでも、あっさり普段着・ガッツリ補正・和洋折衷、用途に合わせて気分に合わせて使い分けてもらえれば良い。

僕達は自分が提供出来る選択肢の質を高めてアピールしていけば良い。

 

そう思える様になった自分エライ(゚∀゚)

 

 

アピール大切‼️

はたるのTwitter

@va_hataru

後藤和裁のHPも見てね。

https://gotowasai.jp

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死装束と故人への想い

今回のブログには人間の死について書かれています。

途中からは僕の実体験もあります。

生々しいかもしれません。

決して楽しい内容ではありません。

その様な話はイヤだな、苦手だなと思う人は読まないでください。

 

 

 

 

後藤和裁では様々な死装束の仕立てを提案しています。

HP見てね(宣伝)

https://gotowasai.jp

宗派によって着たり着なかったりするのですが、今回はその辺りは省略します。

基本的には白ですが決まりがあるわけでは無いようですし、近年は色や柄なども故人や遺族の好みで良いようです。

HPでは小紋の着物を死装束に仕立て替えたものを紹介しています。

白生地を染めたり柄を入れたりする事もできます。

 

 

死装束とは

亡くなった方が身に付ける衣服や小物をまとめて死装束と呼びます。

その中の着物を経帷子(きょうかたびら)と言います。

経はお経の事で、帷子とは単の着物の事です。

白地の単の着物にお経や朱印が施され、昔は麻がよく用いられていた様です。

最近では様々な素材や色の物が用いられています。

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経帷子と普通の着物との違い

⚪︎機能性の違い

亡くなった方が着るのですが、当然自ら着ることはできません。

家族や納棺士が着せる事になります。

できるだけ着せやすい構造になっています。

身丈は対丈で、女性でもおはしょりがありません。

袖は短く、袖底が縫ってありません。

腕を袖に通すのではなく、袖を被せる感じになります。

足袋も付けやすいようにコハゼではなく紐が付いています。

 

⚪︎縫製方法の違い

背縫いのキセは右身頃。

右袖付けのキセは身頃。

返し縫いはしない。

後藤和裁ではこの様な縫製をしています。

他にも、

裁ち鋏を使わずに手で裂く。

糸に玉留めを作らない。

複数人で仕立てる。

など、様々な縫製方法の違いがあります。

どの様な縫製をするかは地域や仕立てる人によって変わります。

それぞれに意味がありますが、後程説明します。

 

⚪︎着装方法の違い

左前で着る。

SNSなどで写真が反転してしまい度々話題になりますね。

この説明も後程。

 

 

 

違いには意味がある

上記の縫製方法や着装方法の違いにはどの様な意味があるのか説明していきます。

 

⚪︎返し縫いはしない

途中で引き返したり迷ったりせずに、真っ直ぐあの世へ行けるようにする。

 

⚪︎裁ち鋏を使わない

故人とのご縁は断ち切らないようにする。

 

⚪︎玉留めを作らない

玉留めを執着と捉え、この世に未練が残らないようにする。

 

⚪︎複数人で仕立てる

死の忌みが一人に掛からないようにする。

 

⚪︎キセが違う、左前に着る

あの世はこの世とは様々なものがあべこべであると考えられているため。

 

 

故人を想う

調べてみると上記の他にも様々な仕立て方の違いがあります。

地域によって、仕立てる人によって、どの様な違いを施すかは様々です。

しかしながら、その違いには意味があり、そのほとんどが故人への想いから来ているものだとわかります。

着物の仕立て方だけではありません。

故人の枕元に屏風を逆さまにして置いたり、六文銭を持たせたり、四十九日まで七日ごとに法要を行ったり。 

死んでしまった後にも次の人生があると考え、その幸せを祈るのですね。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ここからは僕の実体験が書かれています。

身近な人の死の話です。

辛い話です。

最後の方に、この体験から何を感じたのかが少し書かれています。

読む事を推奨はいたしません。

 

 

 

 

 

1年間に3人の死

3月に祖父が、12月に祖母が、翌年の3月に義母が旅立ちました。

 

祖父と祖母は90歳近くで老衰と言える様な最期でした。

長く、しっかりと生きたのではないかと思います。

語弊があるかもしれませんが、僕としては納得のいく死でした。

 

祖父母が亡くなった年のお正月には2人とも美味しそうにお酒を飲んでいました。

祖父は既に自分ではほとんど動けない状態でしたが、僕が注いだお猪口の日本酒を満面の笑みで口にしていました。

3月の半ばに眠るように。

 

寝たきりの祖父をずっと介護していた祖母は後を追うように。

もう少しゆっくりとした時間をこの世で過ごしてもらいたかったのですが、祖父が居ない生活は寂しかった様です。

12月30日に息を引き取り、元日にお通夜。

親戚がみんな集まってのお通夜と葬儀。

みんなで見送る事ができました。

 

 

 

それに対し、義母の死は非常に辛いものでした。

 

病気が見つかり、初期段階だから直ぐに治ると言われていたのに、検査をする度に初期から末期へと診断が変わり、手術をするも取りきれず、本人には全て取ったと伝えながらも再発を防ぐためにと言って薬を投与し、副作用に苦しめられ、病気発覚から2年も経たずにこの世を去りました。

まだ64歳だったのに。

文字に起こすだけで涙が出てきてしまいます。

 

手術後に「全て取り除いた」と説明していた主治医の顔は手術で疲れ切った顔では無かったんだと1週間後に知りました。

「取りきれない様ならばそのまま閉じる」

手術前にそう聞いた義母は泣き崩れたそうです。

生きる気力を無くしてしまうかもしれないという主治医の考えで、本人には伝えない方が良いだろう、そのためには家族にもまずは成功したと伝えた方が良いだろう。という事でした。

それは家族も納得しました。

1度は家に戻り元気に過ごしていた義母ですが、思ったよりも副作用は辛く、予定通りの投薬はできませんでした。

しばらくしてまた入院。

お見舞いに行く度に痩せていく母を見て、妻も僕も心を削られていきました。

3月の初めに会いに行き、別れ際に握手をしながら「また来ます」と言った僕の言葉は嘘になりました。

 

義母の死によって気付いた事

義母は社交ダンスをやっていました。

バラエティ番組を見て習い始めたらしいですが、40歳を過ぎてからの習い事。

同じ時期に始めた同じ年代の人もいたそうですが、その中でも1番下手だったそうで…

でも、1番練習して、1番上手になりました。

指導者の資格も取り指導もしていました。

 

手術をして治ると言われ、それでも自身の身体の事ですからどこかで気付き、恐れ、悲しみ、後悔して、やがては受け入れたのでしょう。

義父に衣裳と遺影の希望を伝えていたようです。

衣裳は思い出のあるダンスの大会で着ていたもの。

遺影はその大会で参加者の皆さんと一緒に撮った写真を引き延ばしたものでした。

遺影は「これで良いのか?」と思うほどにボケていましたが、そうなる事も承知だったようです。

よほど記憶に残る大会だったのでしょう。

元々細身の身体がさらに細くなってしまっていましたが、ピンク色のドレスを纏った姿は美しかった。

 

何もしてあげられなかったけれど、最期は好きなドレスを着て、好きな写真を飾り、花に囲まれた姿を見たら、少しだけ、ほんの少しだけ自分の心が和らいだ様な気がしました。

妻は今でも心を傷めていますが、

あのドレスを着ていたのだから、きっと向こうでも楽しく躍っているだろうね。

などと話をしたりします。

 

四十九日の法要での住職さんのお話が心に残りました。

「法要やお墓参りは、亡くなった人を想う事で死を意識し、生きている自分自身を見つめ直す為のものです」

 

祖母が毎日仏壇に向かい唱えていたお経も、義母があの世でも綺麗なドレスで躍る姿を想像する事も、故人の為にと死装束の仕立て方を変えるのも、死と向き合う事であり、それが生と向き合う為の事だったのか。

 

今までは、もう居なくなった人の為に何かをしても、どこか虚無感を覚えていました。

死後は何処へ行ったのかもわからない、こちらの想いが届くかどうかもわからない。

本当に意味がある事なのだろうかと。

しかし、そうでは無いと気付く事ができました。

 

故人を想い、今を生きる

身近な人の死を体験して、今まではない程に死を意識させられました。

親しい人の死は、やはり辛い。

そんな中で、前述した通り義母の衣裳と遺影は心に温かさを残してくれました。

ダンスに励む姿を思い出せるし、今も躍っているという想像もできます。

お墓参りに行く度に、義母の幸せな姿を思い描くでしょう。

祖父が使っていた帯を締める度に、祖母が縫ってくれた襦袢を着る度に…

この世で精一杯生きた人が、あの世でも幸せになりますようにと祈る。

それと同時に、自分もこの世で精一杯生きようと思う。

やがて自分がこの世を去る時に、あの世での自分の幸せを祈ってくれる人がいて、その人が精一杯生きようと思ってくれるように。

 

 

 

余談

自分の死装束は自分の好きな生地で仕立てようと思っています。

義母が好きな衣裳で旅立った事が僕達に心の安定を与えてくれたから、自分も遺された人に心の安定を与えるため…なんて事は特に思っていません(^_^;)

結果的にそうなれば良いですが、単にあの世でも着物を着たいから👘

複数枚仕立てようと思っています。

ほら、着替えも必要だし…

40歳になったら一枚仕立てて、10年毎に一枚仕立てようかなー。

藍染、友禅、日本刺繍。

とりあえずこの三種類は確保したい。

実際に着るのはどれにしよう…

迷う…

死ぬまでに決めておこう。

 

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