和裁士からの伝言板

和裁士の「はたる」です。一級和裁技能士が着物や和裁のあれこれを綴ります。

技術を売るという事を考えてみた

以前テレビでハンドメイド作品が取り上げられて話題になりましたね。

原価はこれだけで売値はこれ。儲かるね✨みたいな短絡的な話。

いいね👍と思って始めてみたけど愕然とした人もいた事でしょう。

 

和裁士はお客様の反物を預かり、着物という形にしてお客様へ戻します。

原価がー、なんて言われたら300円にも満たない糸代だけです。

 

和裁士に限らず、何かを作って売る場合は原価や必要経費に加え手間や技術への対価を頂いています。

我々は技術を売っているのです。

 

僕は職業柄、様々な職人さんと会うことがあります。

その中の豆腐職人のTさんの話です。

ご実家が豆腐屋で京都で修業されたそうです。

その後、実家へ戻り家業を継ぎました。

大豆からこだわり、大豆農家さんともしっかりやり取りをして、自分で納得のいく豆腐を作っています。

あっさりした豆腐が好まれる事が多い中、敢えて大豆の味をしっかり残しているようです。

一丁で確か250円程。

大豆農家さんにもしっかりお金が渡るようにするとこの金額になるとの事。

初めはスーパーなどへ営業に行ったそうですが、豆腐の説明をする前に「いくらなの?」と聞かれてしまうのが辛かったそうです。

豆腐へのこだわりをちゃんとお客様に伝えるには自分で売らなければと思い移動販売に踏み切ります。

何度も通い、直接お客様と話をして、少しずつファンを増やしていったのです。

ある時、お得意様にこの様に言われたそうです。

 

私はあなたの豆腐を買っているけど、それよりも私はあなた自身を買っているのよ。

 

これを聞いた時にハッとしました。

これが信用であり信頼なのかと。

 

品質の高さ、技術の高さ、努力や想い。

それらを伝えて初めて生じる信用と信頼。

全く同じ商品でも「あなたが作ったものだから」と選んでいただける。

作り手としてこれ以上の喜びは無いのでは。

 

これまでの自分はどうだったのだろうか。

丁寧に、美しく、丈夫で、仕立て替えもできる。

習った事に忠実に、誠実に。

ただ黙々と。

そうしていれば自分の技術は認められる。

黙々と…

 

違っていたのかもしれません。

どんなに高い技術があっても、どんなに強い想いがあっても、口を閉ざしたまま提供していたのではいけない。

しっかりと伝えたい。

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信用と信頼を得るために。

あなたから買っている、あなただから買っている、あなた自身を買っている。

そう言ってもらえるような職人になるために。