和裁士からの伝言板

和裁士の「はたる」です。一級和裁技能士が着物や和裁のあれこれを綴ります。

死装束と故人への想い

今回のブログには人間の死について書かれています。

途中からは僕の実体験もあります。

生々しいかもしれません。

決して楽しい内容ではありません。

その様な話はイヤだな、苦手だなと思う人は読まないでください。

 

 

 

 

後藤和裁では様々な死装束の仕立てを提案しています。

HP見てね(宣伝)

https://gotowasai.jp

宗派によって着たり着なかったりするのですが、今回はその辺りは省略します。

基本的には白ですが決まりがあるわけでは無いようですし、近年は色や柄なども故人や遺族の好みで良いようです。

HPでは小紋の着物を死装束に仕立て替えたものを紹介しています。

白生地を染めたり柄を入れたりする事もできます。

 

 

死装束とは

亡くなった方が身に付ける衣服や小物をまとめて死装束と呼びます。

その中の着物を経帷子(きょうかたびら)と言います。

経はお経の事で、帷子とは単の着物の事です。

白地の単の着物にお経や朱印が施され、昔は麻がよく用いられていた様です。

最近では様々な素材や色の物が用いられています。

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経帷子と普通の着物との違い

⚪︎機能性の違い

亡くなった方が着るのですが、当然自ら着ることはできません。

家族や納棺士が着せる事になります。

できるだけ着せやすい構造になっています。

身丈は対丈で、女性でもおはしょりがありません。

袖は短く、袖底が縫ってありません。

腕を袖に通すのではなく、袖を被せる感じになります。

足袋も付けやすいようにコハゼではなく紐が付いています。

 

⚪︎縫製方法の違い

背縫いのキセは右身頃。

右袖付けのキセは身頃。

返し縫いはしない。

後藤和裁ではこの様な縫製をしています。

他にも、

裁ち鋏を使わずに手で裂く。

糸に玉留めを作らない。

複数人で仕立てる。

など、様々な縫製方法の違いがあります。

どの様な縫製をするかは地域や仕立てる人によって変わります。

それぞれに意味がありますが、後程説明します。

 

⚪︎着装方法の違い

左前で着る。

SNSなどで写真が反転してしまい度々話題になりますね。

この説明も後程。

 

 

 

違いには意味がある

上記の縫製方法や着装方法の違いにはどの様な意味があるのか説明していきます。

 

⚪︎返し縫いはしない

途中で引き返したり迷ったりせずに、真っ直ぐあの世へ行けるようにする。

 

⚪︎裁ち鋏を使わない

故人とのご縁は断ち切らないようにする。

 

⚪︎玉留めを作らない

玉留めを執着と捉え、この世に未練が残らないようにする。

 

⚪︎複数人で仕立てる

死の忌みが一人に掛からないようにする。

 

⚪︎キセが違う、左前に着る

あの世はこの世とは様々なものがあべこべであると考えられているため。

 

 

故人を想う

調べてみると上記の他にも様々な仕立て方の違いがあります。

地域によって、仕立てる人によって、どの様な違いを施すかは様々です。

しかしながら、その違いには意味があり、そのほとんどが故人への想いから来ているものだとわかります。

着物の仕立て方だけではありません。

故人の枕元に屏風を逆さまにして置いたり、六文銭を持たせたり、四十九日まで七日ごとに法要を行ったり。 

死んでしまった後にも次の人生があると考え、その幸せを祈るのですね。

 

 

 

 

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ここからは僕の実体験が書かれています。

身近な人の死の話です。

辛い話です。

最後の方に、この体験から何を感じたのかが少し書かれています。

読む事を推奨はいたしません。

 

 

 

 

 

1年間に3人の死

3月に祖父が、12月に祖母が、翌年の3月に義母が旅立ちました。

 

祖父と祖母は90歳近くで老衰と言える様な最期でした。

長く、しっかりと生きたのではないかと思います。

語弊があるかもしれませんが、僕としては納得のいく死でした。

 

祖父母が亡くなった年のお正月には2人とも美味しそうにお酒を飲んでいました。

祖父は既に自分ではほとんど動けない状態でしたが、僕が注いだお猪口の日本酒を満面の笑みで口にしていました。

3月の半ばに眠るように。

 

寝たきりの祖父をずっと介護していた祖母は後を追うように。

もう少しゆっくりとした時間をこの世で過ごしてもらいたかったのですが、祖父が居ない生活は寂しかった様です。

12月30日に息を引き取り、元日にお通夜。

親戚がみんな集まってのお通夜と葬儀。

みんなで見送る事ができました。

 

 

 

それに対し、義母の死は非常に辛いものでした。

 

病気が見つかり、初期段階だから直ぐに治ると言われていたのに、検査をする度に初期から末期へと診断が変わり、手術をするも取りきれず、本人には全て取ったと伝えながらも再発を防ぐためにと言って薬を投与し、副作用に苦しめられ、病気発覚から2年も経たずにこの世を去りました。

まだ64歳だったのに。

文字に起こすだけで涙が出てきてしまいます。

 

手術後に「全て取り除いた」と説明していた主治医の顔は手術で疲れ切った顔では無かったんだと1週間後に知りました。

「取りきれない様ならばそのまま閉じる」

手術前にそう聞いた義母は泣き崩れたそうです。

生きる気力を無くしてしまうかもしれないという主治医の考えで、本人には伝えない方が良いだろう、そのためには家族にもまずは成功したと伝えた方が良いだろう。という事でした。

それは家族も納得しました。

1度は家に戻り元気に過ごしていた義母ですが、思ったよりも副作用は辛く、予定通りの投薬はできませんでした。

しばらくしてまた入院。

お見舞いに行く度に痩せていく母を見て、妻も僕も心を削られていきました。

3月の初めに会いに行き、別れ際に握手をしながら「また来ます」と言った僕の言葉は嘘になりました。

 

義母の死によって気付いた事

義母は社交ダンスをやっていました。

バラエティ番組を見て習い始めたらしいですが、40歳を過ぎてからの習い事。

同じ時期に始めた同じ年代の人もいたそうですが、その中でも1番下手だったそうで…

でも、1番練習して、1番上手になりました。

指導者の資格も取り指導もしていました。

 

手術をして治ると言われ、それでも自身の身体の事ですからどこかで気付き、恐れ、悲しみ、後悔して、やがては受け入れたのでしょう。

義父に衣裳と遺影の希望を伝えていたようです。

衣裳は思い出のあるダンスの大会で着ていたもの。

遺影はその大会で参加者の皆さんと一緒に撮った写真を引き延ばしたものでした。

遺影は「これで良いのか?」と思うほどにボケていましたが、そうなる事も承知だったようです。

よほど記憶に残る大会だったのでしょう。

元々細身の身体がさらに細くなってしまっていましたが、ピンク色のドレスを纏った姿は美しかった。

 

何もしてあげられなかったけれど、最期は好きなドレスを着て、好きな写真を飾り、花に囲まれた姿を見たら、少しだけ、ほんの少しだけ自分の心が和らいだ様な気がしました。

妻は今でも心を傷めていますが、

あのドレスを着ていたのだから、きっと向こうでも楽しく躍っているだろうね。

などと話をしたりします。

 

四十九日の法要での住職さんのお話が心に残りました。

「法要やお墓参りは、亡くなった人を想う事で死を意識し、生きている自分自身を見つめ直す為のものです」

 

祖母が毎日仏壇に向かい唱えていたお経も、義母があの世でも綺麗なドレスで躍る姿を想像する事も、故人の為にと死装束の仕立て方を変えるのも、死と向き合う事であり、それが生と向き合う為の事だったのか。

 

今までは、もう居なくなった人の為に何かをしても、どこか虚無感を覚えていました。

死後は何処へ行ったのかもわからない、こちらの想いが届くかどうかもわからない。

本当に意味がある事なのだろうかと。

しかし、そうでは無いと気付く事ができました。

 

故人を想い、今を生きる

身近な人の死を体験して、今まではない程に死を意識させられました。

親しい人の死は、やはり辛い。

そんな中で、前述した通り義母の衣裳と遺影は心に温かさを残してくれました。

ダンスに励む姿を思い出せるし、今も躍っているという想像もできます。

お墓参りに行く度に、義母の幸せな姿を思い描くでしょう。

祖父が使っていた帯を締める度に、祖母が縫ってくれた襦袢を着る度に…

この世で精一杯生きた人が、あの世でも幸せになりますようにと祈る。

それと同時に、自分もこの世で精一杯生きようと思う。

やがて自分がこの世を去る時に、あの世での自分の幸せを祈ってくれる人がいて、その人が精一杯生きようと思ってくれるように。

 

 

 

余談

自分の死装束は自分の好きな生地で仕立てようと思っています。

義母が好きな衣裳で旅立った事が僕達に心の安定を与えてくれたから、自分も遺された人に心の安定を与えるため…なんて事は特に思っていません(^_^;)

結果的にそうなれば良いですが、単にあの世でも着物を着たいから👘

複数枚仕立てようと思っています。

ほら、着替えも必要だし…

40歳になったら一枚仕立てて、10年毎に一枚仕立てようかなー。

藍染、友禅、日本刺繍。

とりあえずこの三種類は確保したい。

実際に着るのはどれにしよう…

迷う…

死ぬまでに決めておこう。

 

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