和裁士からの伝言板

和裁士の「はたる」です。一級和裁技能士が着物や和裁のあれこれを綴ります。

女袷長着を男袷長着へ仕立て替え

 

ご存知の通り、着物は仕立て替えができます。

寸法を変えたり、形を変えたり。

でも、女⇆男の依頼は少ないですね。

長着の場合、男→女はキビシイのです。

女性はおはしょりをしてきるので身丈が長く必要ですからね。

女→男も少ないのは何故か?

・男性着物ユーザーが少ない

・仕立て替えられる事が知られていない

こんな感じでしょうか。

 

そんな状況の中、女物長着から男物長着への仕立て替えの依頼が来ました‼️

 

先に結果を見せましょう。

 

これが

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こうなった‼️

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違いが分かりますか?

洗い張りをして仕立て替えたので形状だけでは無く、もちろん寸法もご本人に合う様にしました。

 

反物からでは無く仕立て替え、しかも形状を変えての仕立て。

様々な制約がある中での仕立てです。

どの部分がどの様に変化するのか。

どの様な問題が起きるのか。

その解決策は何か。

その辺りを説明していきたいと思います。

 

1.女物と男物の違い

2.仕立て替えで起こり得る問題

3.解決策を実例と共に

こんな感じで書いていきます。

レッツゴー٩( ᐛ )و

 

 

1.女物と男物の違い

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左が女物、右が男物です。

ひとつずつ説明します。

 

⚪︎袖口

女物6寸(22.7㎝)男物7寸(26.5㎝)が基本。

 

⚪︎袖付

女物5寸5分〜6寸(20.8〜22.7㎝)が多い。

男物は袖丈から詰人形を引いた寸法。

 

⚪︎詰人形

男物のみ。2寸5分(9.5㎝)が基本。

女物の振りとは違い、前後で縫い閉じてある。

閉じてあるので袂に物を入れられる。

 

⚪︎振り

女物のみ。

袖丈から袖付を引いた寸法。

前後が開いている。

 

⚪︎身八ツ口

女物のみ。3寸5分〜4寸(13.3㎝〜15.2㎝)が基本。

着る時にここから手を入れておはしょりを整える事ができる。

 

⚪︎内揚

女物も男物も着た時に帯で隠れる。

帯を締める高さに合わせるため、肩山からの寸法が男女で違う。

 

⚪︎衿巾

女物は広衿で衿巾は11.4㎝。

折って着る。

折らずに着るバチ衿もある。

男物は棒衿で衿巾は5.7㎝が基本。

折らずに着る。

 

⚪︎褄下

男女とも身丈(背)の半分が基本。

身丈に対する割合は同じだが、長さ自体は女物の方が長い場合が多い。

 

⚪︎身丈(背)

女物は身長と同寸が基本。

男物は身長×0.83〜0.85が基本。

 

⚪︎衿肩明

女物は2寸4分が基本。

男物は2寸2分〜3分位。

男女で同じ位の体型なら女物の方が大きい。

 

⚪︎繰越

女物は5分〜1寸が多い。

男物はゼロが基本。

 

2.仕立て替えで起こり得る問題

形状の違い、寸法の違い、それに加えて内蔵されている縫代の量とその状態によって様々な問題が起こります。

各部分でどの様にな問題が起こり得るのか考えてみます。

問題が起きなかったとしても確認しておきたい部分がありますので、それも記載します。

 

⚪︎身丈

多くの場合、女物の方が長いです。

内揚げがあればその分もプラスされますね。

男物長着の背身丈は、

身長×0.83〜0.85

これが目安です。

僕は身長177㎝の細身で背身丈は150㎝。

 

⚪︎身巾

基本的に問題ありません。

 

⚪︎袖丈

現状の袖丈と袖底縫代を測り、希望の袖丈にできれば大丈夫。

希望より少し短くなっても、まぁ良いと思います。

男物って、袖丈の事はあまり気にしなくても良いんですよね。

襦袢・着物・羽織の袖丈が違っても、着てしまえば分かりません。

袖丈1尺2寸8分の襦袢に袖丈1尺2寸の着物を着てたりしますけど大丈夫です。

 

⚪︎袖口

袷の場合、ここ、意外と盲点です。

男物の方が1寸も長いので、口布が足りない‼️という事があります。

 

⚪︎裄(袖巾、肩巾、衿肩明)

布巾と体型によります。

袖付部分の縫代を確認して、袖巾・肩巾が取れるのかどうかです。

これは分かりますよね?

さらに注意しないといけないのが衿肩明です。

もちろん体型によりますが、男女で同じ体型の場合は女物の方が衿肩明が大きくなります。

女性は衣紋を抜いて着るので、衿が首から離れた位置を大きく回り込みます。

一方、男性は首に沿わせて着ます。

そのため、女物の衿肩明は男物に比べて大きくします。

それが何故、裄に関係してくるのか。

この図をご覧ください。

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衿肩明は肩山付近にある縫いからの切り込みの事です。

切ってしまっているので、当然小さくはなりません。

しかし、男物に仕立て替えるためには小さくしたい。

衿肩明の「大きさ」は背縫いとの相対関係ですので、切り込みの先端から背縫いまでとなります。

小さくするには背縫い代を増やせば良いわけです。

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しかしながら残念な事に、上の図の様に背縫い代を増やせば肩巾の限界値が小さくなってしまいます…(ノД`)

この事を考慮して裄を確認しないといけません。

 

⚪︎衿丈、掛衿丈

身丈と同様に、多くの場合は女物の方が長くなるので大丈夫です。

少し足りない位なら、その分だけ褄下を長くします。

 

⚪︎ほぼ全ての部分で起こり得る問題

女物や男物に関係無く、仕立て替えや寸法直しに共通する問題です。

長くなる・広くなるなどで、今まで縫代だった部分が見えてしまう事があります。

その場合、色焼け、布の傷みなどが問題となってきます。

どの程度なら許容できるのかという事になりますが、全て解いてみないと全体の程度を知る事は困難です。

また、予想外の切り込み、縫代の欠損などで思っていた仕立てができない事もあります。

これも解いてみないと分かりません。

この様なリスクがある事を知っておいていただきたいなと思います。

 

3.解決策を実例と共に

前途した問題にどの様に対処するかを書いていきます。

 

⚪︎袖口

その1. 袖口を小さくする

女物が6寸ですので、6寸あればちゃんと腕を出して動けます。

それに、袖口が大きいと最近のドアノブに泣かされる確率が上がります( ´△`)

但し、袂に物を出し入れする為には6寸では小さいかも。

僕は6寸5分(24.6㎝)にしています。

 

その2.  八掛の前身頃から切り出す

袖口は7寸じゃないとイヤ(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)

という場合は八掛から切り出します。

八掛の長さが十分にあればそのまま、短ければ袖山で元の袖口布と接ぎます。

これなら袖口を7寸にできます。

 

 

⚪︎裄(袖巾、肩巾、衿肩明)

1番厄介な部分ですね。

2枚の着物から仕立てたりする場合は身頃に足し布を入れたりもできますが、今回は1枚の着物だけです。

前途した通り、肩巾には限界があります。

布巾の問題だけでは無く、着る人の寸法によっても肩巾には限界があります。

足りない分は袖巾でなんとかする事になります。

袖に足し布をする事で袖巾を広くします。

「割り入れ」と表現しています。

写真の様に、表は袖付け側に、裏は袖口側に足し布を付けます。

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表は矢印の部分に縫い目があります。

今回の着物は細かい柄が散らばっていますし、色味が出来るだけ繋がる部分を選んだので目立ちにくいと思います。

着て動いていればなかなか気付かれる事は無いでしょう。

無地だと目立ちますが、割り入れが着物としておかしい訳ではありません。

 

ちなみに、僕の着物も袖に割り入れしています。

柄を合わせると目立たなくなります。

どこに縫い目があるか分かりますか?

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さて、この足し布を何処かから切り出してこないといけないわけですが、何処からどの様に切り出しましょう?

いくつか方法があります

 

・衿から その1

衿の構造はこの様になっています。

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赤いラインで裁断し、掛衿先を縫う事で外側からの見た目は元の衿と同じになります。

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今回の仕立て替えはこの方法でした。

 

・衿から その2

この様に切り出す事もできます。

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切り出して足りなくなった部分は裏衿で補います。

男物から男物への仕立て直しで、掛衿が短い時はこの方法を考えるかなぁ…

袖丈は充分にはできない可能性が大きいです。

自分の着物でこの方法を使いましたが、切り出した布をいっぱいに使っても袖丈は短くなりました。

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・右衽から

図の様に切り出し、無くなった部分は別の布を足します。

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できるだけ本体と似た布(材質・織り・色)を足したいです。

本体と似た様な布があれば、この方法が1番袖巾を出す事ができるでしょう。

 

※どの方法も、袖丈・袖巾がどの位にできるかを考えて選択する事になります。

希望の寸法はできない場合は、どの部分を妥協するかを考えて選択する事になります。

 

 

⚪︎色焼けや布の傷みなど

穴や破れなどは簡単な補強でよいなら仕立て屋でもできます。

裏に接着芯や布を当てる程度です。

しっかりしたかけつぎ、色補正は専門の職人さんに依頼する事になります。

解いてみなければ分からない、という事は解けば分かるという事です。

そのままの状態では使用する事が無く、解いてしまっても後悔しないのであれば、ご自身で解いてから我々に見せていただければどの様な問題が発生するのかが事前に分かります。

ご自身で解く場合は、解く前の写真を全体的・部分的に撮っておくと無難かと思います。

 

 

今回書いた内容は、基本的な女物長着から男物長着への仕立て替えです。

元の着物の寸法や状態、仕立てる着物の寸法などで起こる問題は様々です。

僕が経験した問題なんて、まだまだ僅かなものでしょう。

でも、和裁は基本的に直線裁断なのでパーツは全て四角。

仕立て上がりの形状が違ってもパーツは四角。

万能とまでは言えませんが(無理なものは無理)パーツの組み替え方を工夫することで仕立て替えが可能になる場合が多々あるという事を知ってもらえたら嬉しいです(๑˃̵ᴗ˂̵)

 

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