和裁士からの伝言板

和裁士の「はたる」です。一級和裁技能士が着物や和裁のあれこれを綴ります。

和裁士が着付け講師と出会ったら その1

7月30日に着付け講師のすなおさんと、僕と同じ一級和裁技能士のあやさんの3人でライブ動画配信をしました。

その動画はこちらからご覧いただけます。68分。

https://youtu.be/1lIfRcDsA2U

 

内容を簡単にまとめると、

和裁士とはどんな仕事なのか、その技術はどの様なものなのかを紹介する

と言った感じです。

 

とにかく、着物好きの人達に和裁士の存在をアピールしたかったのです。

 

はて、何故僕はこの2人と知り合い、動画配信をするようになったのか?

 

既にきっかけが何だったのか曖昧になっているので、過去のツイートを見返して、ここに書き留めておこうと思います。

 

まずはすなおさん。

僕がフォロワーさんと技術に対する報酬、その金額設定について会話をしていて、それを見たすなおさんがツイート。

それに対して僕が反応しました。

和裁士は着物を着る人から直接仕事を受ける事は少なく、着やすい着物を仕立てるための技術や努力が伝わっているかどうか、なかなか分かりません。

それを伝えられるとしたら着付け講師だと思いました。

しかし、着付け講師がどの程度まで和裁士の仕事を理解しているのだろうか。

それを理解していただかないと伝える事ができません。

僕からすなおさんにDMを送り少しやり取りをしましたが、やはり和裁の技術に関する知識はあまり無いようでした。

僕としては、すなおさんの様な着付け講師に和裁士の技術を理解してもらい、それを生徒さん達に伝えてもらえたらという思いがありましたが、その時は具体的にどうすれば良いのかも分かりませんでした。

これがすなおさんとの初めての出会いで、すなおさんはまだツイッターを始めて間も無い頃でした。

まさか現在のような有名人になるとは…

 

それから半年以上すなおさんとの交流は無かったと思います。

仕事場で1人で作業をしていた僕はひと息つこうとツイッターを見ました。

すると、すなおさんがライブ配信をやっているらしい。

それを観た後にこのやり取り、

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この時は本気にはしていませんでした。

これが僕の悪い所です。

既にインフルエンサーになっているすなおさんからの提案。

明らかなチャンス。

掴み取れバカヤロウ!

まぁ、それでもこの後にミシン仕立てと手縫い仕立ての違いについて動画を撮った事については、自分で自分を褒めて良いと思います。

その動画はこちらです。22分。

https://youtu.be/K7d0_oQ3CGc

これをきっかけにすなおさんとのやり取りが増えました。

 

次はあやさんとの出会い。

僕がこの様なツイートをしました。

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これにあやさんが反応してくれました。

その後DMでやり取りをしました。

着物業界、和裁業界の現状と未来について。

望む未来のためには何が必要なのか。

自分の考えが明確に、的確に伝わる様に。

お互いに慎重に言葉を選んでいたと思います。

現時点で一番必要な事は和裁士の存在や技術を着物を着る人に伝える事である。しかしながら我々は直接お客様と接する機会は少なく発信力も弱い。着付け講師の力を借りる事で和裁士の重要性を伝える事ができるはずである。

あやさんの言葉と僕の言葉の段差が全く無い会話だったと感じました。

驚きと嬉しさがありました。

しかも既にすなおさんにアポを取っているとの事。

これには本当に驚きました。

さすがにこのチャンスを逃すほどのバカヤロウではありません。

図々しいと思われても構わない。

同席を願い出ました。

 

快く受け入れていただき、6月に着付け講師と和裁士2人が出会いました。

 

次回へ続く…

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腰は身体の要

様々な職業があり、それぞれに職業病の様なものがあるかと思います。

 

和裁士はほとんどの場合は床に座布団を敷いて座って作業をしています。

テーブルに椅子で作業をしている人もいるとは思いますが、床に座って低い作業台の上で作業をした方が速いと思うのです。

 

そうなると体勢は正座かあぐら。

正座だと膝が痛い。

あぐらだと腰が痛い。

男仕立て(かけはりを使わずに足の指で布を掴む)だとさらに腰が痛いらしい。

多くの和裁士は腰や膝の痛みに悩まされているのでは無いでしょうか。

 

僕はかけはりを使ってあぐらで作業をしています。

前屈みになる作業が多く、しかも僕は猫背なので腰への負担が大きく、腰痛に悩まされています。

意識して良い姿勢を保とうとするのですが、気付くと背中が曲がってしまっています…

 

腹筋、背筋、インナーマッスルを鍛えるべきなのでしょうが、トレーニングとか嫌いだし…

いやいや、そんな事も言っていられないんですよね。

腰を痛めて和裁から離れたという話も聞いた事がありますからね。

 

さて、お題にあるように腰は字のごとく正に身体の要であると実感した事があります。

あれは和裁を始めて4年目でした。

 

家で座布団に座ってテレビを見ていました。

あぐらで。

微妙に座布団の中央からズレて座っていて違和感がありました。

普通に座り直せば良いのに、あぐらの状態のまま体に反動をつけて飛び上がり、下半身をクイッと横に動かして座布団の位置を修正しようとしました。

このクイッの時に僕の腰は松井秀喜のフルスイングと正面衝突をしたようです。

両手をついて _| ̄|○ この状態から動けません。

1㎜も動けません。

もっと楽な体勢を、とかそんな事では無い。

少しでも動かしたら次は中村剛也あたりがやってくるでしょう。

時間をかけて横になり、朝までそのまま。

次の日にヨチヨチと病院へ。

電車の加速・減速が腰を脅かします。

 

病院へ行ってもすぐに治るわけもなく。

レントゲン撮って、MRIの予約して、湿布薬をもらって、痛み止めをもらって、安静にと言われ。

安静に。

無理。

だって1週間後に全国大会(´;ω;`)

 

1日休んで次の日から練習再開。

 

しかし、コテが、持てない…

前屈みで物が持てないのです。

持ったものは手で支えて、その手を支えているのは腕で、その腕を支えているのは肩で、その肩を支えているのは上半身で、上半身を支えているのは腰でした。

 

腰さん、今までずっと頑張ってくれていたんだね。

それなのに、あんな体勢のままジャンプしてクイッて、ゴメンナサイ…

 

正に身体の要。

ここがダメになると全てがダメになると言っても過言ではありません。

和裁は普段の作業で腰に負担がかかる職業。

せっかく身につけた技術も使えなくなっては意味がありません。

先生に言われました。

和裁も「心・技・体が揃わなくてはいけない」と。

身体のケアも仕事のひとつです。

プロならばしっかり意識しなくてはいけませんね。

 

その2年後。

後ろにあるティシュの箱を取ろうと体を捻った時に中村剛也がやってきました…

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技術を売るという事を考えてみた

以前テレビでハンドメイド作品が取り上げられて話題になりましたね。

原価はこれだけで売値はこれ。儲かるね✨みたいな短絡的な話。

いいね👍と思って始めてみたけど愕然とした人もいた事でしょう。

 

和裁士はお客様の反物を預かり、着物という形にしてお客様へ戻します。

原価がー、なんて言われたら300円にも満たない糸代だけです。

 

和裁士に限らず、何かを作って売る場合は原価や必要経費に加え手間や技術への対価を頂いています。

我々は技術を売っているのです。

 

僕は職業柄、様々な職人さんと会うことがあります。

その中の豆腐職人のTさんの話です。

ご実家が豆腐屋で京都で修業されたそうです。

その後、実家へ戻り家業を継ぎました。

大豆からこだわり、大豆農家さんともしっかりやり取りをして、自分で納得のいく豆腐を作っています。

あっさりした豆腐が好まれる事が多い中、敢えて大豆の味をしっかり残しているようです。

一丁で確か250円程。

大豆農家さんにもしっかりお金が渡るようにするとこの金額になるとの事。

初めはスーパーなどへ営業に行ったそうですが、豆腐の説明をする前に「いくらなの?」と聞かれてしまうのが辛かったそうです。

豆腐へのこだわりをちゃんとお客様に伝えるには自分で売らなければと思い移動販売に踏み切ります。

何度も通い、直接お客様と話をして、少しずつファンを増やしていったのです。

ある時、お得意様にこの様に言われたそうです。

 

私はあなたの豆腐を買っているけど、それよりも私はあなた自身を買っているのよ。

 

これを聞いた時にハッとしました。

これが信用であり信頼なのかと。

 

品質の高さ、技術の高さ、努力や想い。

それらを伝えて初めて生じる信用と信頼。

全く同じ商品でも「あなたが作ったものだから」と選んでいただける。

作り手としてこれ以上の喜びは無いのでは。

 

これまでの自分はどうだったのだろうか。

丁寧に、美しく、丈夫で、仕立て替えもできる。

習った事に忠実に、誠実に。

ただ黙々と。

そうしていれば自分の技術は認められる。

黙々と…

 

違っていたのかもしれません。

どんなに高い技術があっても、どんなに強い想いがあっても、口を閉ざしたまま提供していたのではいけない。

しっかりと伝えたい。

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信用と信頼を得るために。

あなたから買っている、あなただから買っている、あなた自身を買っている。

そう言ってもらえるような職人になるために。

裄も袖巾も問題無いのに振りが出る原因

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ツイッターでこの様なアンケートを実施しました。

途中経過ですがご覧の通り8割の人が経験しているようです。

想像以上に多くて驚きました。

裄も袖巾も着物と襦袢との兼ね合いが悪くは無いのに、一体何が原因で振りが出てしまうのでしょうか。

考えられる原因は2つあります。

 

1つ目、襦袢の袖に丸みが無い。

これは単に着物の丸みの内側で襦袢がつっかえてしまっているだけです。

着物の丸みが大きいほど振りが出やすくなるでしょう。

襦袢の袖の角を折り曲げてください。

 

2つ目、着物と襦袢で胸元の巾の兼ね合いが悪い。

これが非常に厄介です。

 

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襦袢と着物を重ねて、着たような状態にしてあります。

この着物と襦袢は寸法が合っています。

袖付けの所に赤マチ針があります。

その高さと同じ衿付け(今回は衿付けに来ていますが、袖付けの長さや衽下りの長さによっては衽付けになります)の所の青マチ針までの巾は22㎝です。

袖付けの高さでの前巾が22㎝という事です。

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襦袢の衿が2㎝程出ているのがわかるでしょうか。

実際に着るときは衿巾を折りますが、これは置きやすくする為にそのままにしてあります。

衿巾を折ったとしても襦袢の衿は同じ位出てくるでしょう。

程良く半衿が見える事になります。

 

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着物の衿をめくってみました。

青マチ針が着物の衿付けの位置でした。

黄マチ針は袖付けの高さでの襦袢の前巾です。

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着物に比べて2.5㎝程広くなっています。

衿巾自体は襦袢の方が狭いので、この部分での襦袢の巾がしっかり広くないと着た時に半衿は見えなくなってしまいます。

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襦袢の巾を狭くしてみました。

襦袢の衿が見えていません。

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見えていませんね。

この状態で着物の衿をめくってみました。

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青マチ針を見ると、襦袢の巾は5㎜程しか広くなっていません。

 

袖付けの高さでの前巾が襦袢>着物でなければいけません。

その差は2㎝以上です。

そうでなければ振りが出てきます。

何故振りが出るのか、見てみましょう。

 

半衿を見せる為には襦袢の衿を内側に引っ張らないといけません。

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内側に引っ張りました。

襦袢の衿が見えています。

振りの部分をアップにします。

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振りが出ています。

袖付けの部分から振りが出ています。

半衿を見せる為に「袖付けの高さと同じ高さ」の『衿を内側に引っ張った』ので、「袖付けの高さと同じ高さ」の『身頃も内側に引っ張った』事になり、当然「袖付の高さ」で『袖を内側に引っ張った』事になります。

袖全体を内側に引っ張ったようなものです。

振りが出ます。

 

裄や袖巾の問題ではなく、袖付の高さでの前巾の問題です。

 

この様な事を防ぐためにどうしたら良いのか。

 

古着を買う場合

自分のベストサイズを確認してください。

お手持ちの襦袢と着物で、自分の身体にも合うし、襦袢と着物も合うという組み合わせを探して巾を測ってください。

裄、袖巾に加えてこの部分の巾を把握しておくと良いと思います。

古着を買う時にその寸法を参考にしてください。

 

誂える場合

やはり自分に合う襦袢と着物の組み合わせを探してください。

着物を誂える場合はその着物を、襦袢を誂える場合はその襦袢を見本として渡し、同じ様に仕立ててほしいと伝えてください。

 

なかなか気付きにくい事だと思います。

着物と襦袢を組みで仕立てる場合は必ずこの巾を確認しています。

 

この問題が発生してしまった場合の対処法は、現時点では僕には分かりません。

着付けの先生にも聞いてみますが、良い方法があれば教えてください。

宜しくお願いします。

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着物を纏うとは…

これを読んでいる人の大半は着物好きだと思います。

何故、着物を着るのでしょう。

着るとどの様な気分になるでしょう。

 

テンションが上がる。

特別感がある。

身も心も引き締まる。

など、人によって、着る場面によって、色々でしょう。

 

僕の祖母は着物の仕立てができる人でした。

「四十の手習い」などと言っていたので四十を過ぎてから覚えたのでしょう。

地元の腕の良い職人さんに教わったと言っていました。

着物はもちろん、羽織、小裁ち、コート、綿入れなど、様々なものを仕立てていました。

今よりは寸法は大雑把だった様ですが、自分が和裁をやるようになって祖母の偉大さが分かりました。

お正月は家族で着物を着て過ごしていましたので、全く馴染みの無いものではありませんでした。

 

和裁を始めて、行事などで着る機会が増えました。

仕事の延長で着るわけですから、半分は面倒だなと思いつつ、それでも特別感や高揚感を覚えます。

最近ではオフ会や囲碁で着る事が増えました。

仕事が関係無くなるとやっぱり楽しい部分だけになりますよね。

囲碁を打つ時に着ていくと場の雰囲気にも合うし、家を出る時はウキウキしますね。

 

今年の春先に襦袢を着ようとしたら、袖付がほころびていました。

祖母が女物の紬の着物を僕の襦袢として仕立て替えてくれた物です。

 

あ、おばあちゃんが作ってくれた襦袢が…

 

祖母は僕が和裁を習うと伝えた時、やめた方が良いと言いました。

何故そう言ったのかは今になればよく分かりますね。

でも、お盆やお正月に帰省すると和裁の話で盛り上がりました。

仕立てた着物の写真を見せたり、失敗した話をしたり。

 

和裁は、仕立て替えや仕立て直しを前提として裁縫する事が多いです。

多いというか、ほぼそれです。

未来を見ているのです。

その未来は無いかもしれないけれど。

でも、未来を見るのです。

女物の紬の着物は祖母の手によって見事に男物の襦袢という未来を実現しました。

 

頭では分かっていました。

でも、襦袢のほころびを見て心で感じました。

未来へ受け継がれた着物には想いが込められている。

反物になるまでに関わった職人さん達の想いはもちろん、最初に仕立てた職人さんの未来への想い、着ていた人の想い、仕立て替えた職人さんの想い、それらの人達に対する自分の想い。

仕立て替えた亡き祖母の想いが込められていただろう襦袢の一部が欠落した事で強く認識しました。

 

着物は想いを纏う事ができる。

 

もちろん、着物以外の衣服や、衣服でなくても、作った人や前の持ち主の想いが込められている物は沢山あるでしょう。

でも、着物は特に想いが強く残る気がします。

それは僕が和裁士だからかもしれませんが、僕の中ではそうなのです。

 

襦袢の袖付はまだ直していません。

失ってようやく気付いた想いを、しばらくはそのまま強く感じていようかなと思います。

祖母から受け継いだ襦袢を着て、自分で仕立てた着物を着て、祖父から受け継いだ(まだ祖父が生きている時に無断で持って来た)帯を締めて、ウキウキしながら出掛けるのです。

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和裁士の道具その1

僕が普段使っている道具を紹介します。

和裁士だったらみんな使っているよね!

という物もありますし、

使う人もいるけど、使わない人もいるよ〜。

という物もあります。

特性や使い方などを書いてみようと思います。

 

 

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縫い針

縫い方や縫う物によって使い分けます。

種類が色々あります。

「四ノ一(しのいち)」とか「三ノ五(さんのご)」などと数字を使って表記されています。

最初の数字は太さ。数字が大きいほど細くなります。

次の数字は長さ。数字が大きいほど長くなります。

「つむぎえりしめ」とか「がすくけ」と言葉で表記されている事もあります。

曲がると真っ直ぐ縫えなくなります。

つまんでクルクル回すと曲がっているかどうかがよく分かります。

写真、右から三ノ五(がすくけ)、四ノ一、四ノ三、つむぎえりしめ。

 

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指貫(写真左手前)

ゆびぬきと読みます。

中指の第一関節と第二関節の間にはめて、針の頭(糸を通す方)を押します。

金属製と革製があります。

革製(牛の革)の物を使っています。

消耗品です。

硬い布を縫うと針が指貫を突きぬける事がありますが、激痛です。

 

小鋏(写真右中央)

糸を切ったり、布に切り込みを入れたりするのに使います。 

地元の新潟で買いました。3,700円。お高め。

後輩がこれを使っていて、とても良く切れるので調べたら、実家からそれほど離れていないお店のものでした。

帰省した時に直接お店に行って、「これ下さい」と言ったら、「危ないので素人さんには売れません」と言われた(^_^;)

そろそろ研ぎをお願いしたい感じです。

 

裁ち鋏(写真上)

布を断つ時に使って使います。

小鋏は使わず、全て裁ち鋏を使う人もいます。

先端でしっかり切れないといけません。

研いでくれる人がいなくて困っています。

普通の刃物の研ぎ方とは違うらしい。

 

ヘラ(写真左中央)

布に標(しるし)を入れる時に使います。

布に当て、擦り付ける事で標を入れます。

写真のヘラは牛骨。手に入れにくくなりました。理由はよくわかりません。

最近では水牛の角で作られたヘラがあります。

標はできるだけ細くしたいのですが、使う程に摩耗していくので刃物の様に砥石で研ぎます。

研ぎすぎると布が切れるので注意。

先端を椿油に浸けて滑りを良くします。

 

目打ち(写真右手前)

用途は様々。

表返した羽織の衿先の角を出したり、絡まった糸をツンツンして解いたり。

細かい所のツンツン系(?)はこれを使います。

頻繁に使っているのは自分だけのような気もする…

 

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物差し(写真手前と右)

尺差しとメートル差しがあります。

尺差しは1尺と2尺、メートル差しは50センチと1メートルの物差しがよく使われます。

後藤和裁ではメートル法を採用しているのでメートル差しを使っています。

素材は竹です。

2㎜単位で目盛があり、片端の10㎝間は1㎜単位で目盛があります。

1㎜単位の目盛は細か過ぎて見間違えやすいので使わないようにしています。

奇数㎜を見る時は2㎜単位目盛の間を見ます。

定規ではありません。物差しです。

 

霧吹き(写真中央)

ポンプで中の空気を圧縮させる事により、連続して霧が出ます。

シュッ、シュッ。ではありません。

シャーーーーーーッです。

綿の当て布に霧を吹いて湿らせ、その当て布を生地の上に置いてアイロンを当てる事で生地に湿気を与えます。

非常に細かい霧が出るので、ムラなく湿らせる事ができます。

噴霧口にゴミが詰まると上手く噴霧できなくなったり、ポンプのゴムが摩耗すると圧縮できなくなるのでメンテナンスが大切です。

7,000円とか8.000円とかした気がする。高い。

でもお値段以上。

 

けさん(写真左)

文鎮。

圭算(けいさん)が訛った。

易の算木と形が似ている事からこの名が付いた。

美術館などで巻物などの書物を抑える文鎮もけさんと呼ばれているらしい。

交や享などの漢字の「なべぶた」は「けいさんかんむり」とも言う。

うん、雑学に逸れ過ぎ。

布を抑えるために使います。

小さい方で1kg、大きい方は2kgあります。

金属の塊。

落とすと危ない。

サビが出る事があるので布で包んであります。

 

 

馴染みのある物から珍しいものまで、色々ありますね。

良い道具を長く大切に使いたいですね。

今回はこの位にしましょう。

第2弾はまた今度。

 

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自己紹介

一級和裁技能士の「はたる」です。

現在、名古屋市名東区の(株)後藤和裁で働いています。

このブログでは和裁の技術や和裁を学んで思う事、着物への想いなどを書いていこうと思います。

全て僕個人の意見です。

 

さて、初回なので僕の事や、今ブログを始めるまでの経緯などを書いてみたいと思います。

 

出身は新潟県長岡市。1982年3月生まれ。

高校は工業高校の電気科。大学は工学部の電気電子工学科。

大学ではサークル活動に専念。オーケストラでヴィオラを弾いていました。

それまでは音楽は苦手でしたが、何故かオーケストラに。楽譜などは全く読めません。

楽器を選ぶといっても菅は無理だし、チェロは大きい、コントラバスは大き過ぎ、ヴァイオリンは希望者多いし、え?ヴィオラ?何それ?ヴァイオリンと同じでしょ?じゃあ、それで。

その程度。

が、しかし、ハマりました。

ずっと弾いていました。

練習を頑張ったおかげで、楽しんで弾けるようになり、無事に大学を中退いたしました。

4年目の夏にね。

 

中退する前に次の道を探さねばと思い色々考えました。

なんとなくですが、日本の伝統的な仕事がしたいと思っていました。

地元の長岡市は花火が有名で、花火師になりたいと以前からうっすら思っていたような、うん、なりたい。

という事で、いくつかの煙火工場に問い合わせましたが全て門前払い。

サクッと諦めて次を探しました。

 

ネットでウロウロ。

ふと目に入った赤い振袖を見て、

あ、着物綺麗だな、じゃあ、これで。

その程度。

いくつかの縫製所をネットで調べて、結局は1番初めに目に入った後藤和裁に問い合わせ。

名古屋ってどこ?何県?まぁ、いいか。

見学に行ったら、入りたかったらどうぞって感じだったからここで決定。

 

大学を辞め、大好きだったサークルも辞め、半年間派遣の仕事。大切に弾いてきた楽器は後輩に売って新しい生活の資金に。

4月に名古屋へお引越し。彼女と共に。

あ、ここ深く突っ込まないでください。話が長くなりますので。

 

で、和裁生活が始まりました。

 

卒業までは5年ですが、一級の和裁技能士の資格を取るのには6年かかりました。

非常に不器用で、色々な作業を身体が覚えるまでにとても時間がかかりました。

全然綺麗に縫えない。紆余曲折しかない。

しかしながら自分で選んだ事。

辞められない。

辞められる訳がない。

もう進むしかない。

周りの方々に支えられなんとか一級技能士の資格を取りました。

 

資格を取ってどうなったか。

何も変わりませんでした。

毎日縫う。

色々な物を縫って経験を積む。

少ない仕立て代、ギリギリの生活を維持する為に縫う。

衰退していくこの業界を見ながら。

 

中学、高校、大学でもっと勉強していれば…

今でも高校や大学の新学期が始まる夢を見ます。

勉強しなければ。

電気回路の公式を覚えなければ。

微積の問題を解かなければ。

そんな夢を。

はっきり言って後悔が大きい。

でもそれは自分のせい。

もう戻れない。

 

未来に光はあるのだろうか。

分からぬまま過ぎる時間。

趣味である囲碁の情報収集のために始めたTwitter

着物の事は二の次だったけれど、そこには沢山の着物好き。

呉服屋からの仕事を多く扱うため、お客様とは直接会う事が少ないのです。

それ故に、着物を着た人の声は届かない。

しかしTwitterには溢れていました。

 

「未来に光はあるのだろうか」?

何を馬鹿な事を。

既にそこらじゅうで光り輝いていて、ただ自分がその中にいないだけでした。

自分も着よう。着て出かけよう。

 

着物を着てオフ会に参加したり、囲碁を打ちに行ったり。

そこで驚いたのは、あまりにも低い和裁士の認知度でした。

ワサイって何?

作るって織るの?染めるの?

え?縫う?ミシンで?

 

何故こんな事に。

答えは簡単。知ってもらおうとしていないから。

呉服屋からの仕事を淡々とこなすだけ。

これでは知られる訳がない。

 

和裁の技術は奥深く、面白く、非常に便利なもの。

この技術を沢山の人に知ってもらいたい。

この技術をもっと活用してもらいたい。

この技術はすごいんだということを伝えたい。

 

和裁士である自分の未来を光らせるのは、和裁士である自分自身のみ。

 

 

こんな感じで熱い(ウザい?)想いを伝えていこうかと思います。

はっきり言って、発信とか苦手なんです。

そういうのが苦手なので人間以外の物を扱う仕事を選んだのです。

文章書くの苦手なんです。

計算してる方が好きなんです。

だから上手くは出来ません。

でもやります。

見ていてください。

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